法第56条第7項の政令で定める基準で同項第一号に掲げる規定を適用しない建築物に係るものは、次のとおりとする。
一 当該建築物(*)の第135条の9に定める位置を想定半球の中心として算定する天空率が、***「道路高さ制限適合建築物」という。)の当該位置を想定半球の中心として算定する天空率以上であること。
法第56条第7項第一号の政令で定める位置は、前面道路の路面の中心の高さにある次に掲げる位置とする。
一 当該建築物の敷地(道路高さ制限が適用される範囲内の部分に限る。)の前面道路に面する部分の両端から最も近い当該前面道路の反対側の境界線上の位置
二 前号の位置の間の境界線の延長が当該前面道路の幅員の1/2を超えるときは、当該位置の間の境界線上に当該前面道路の幅員の1/2以内の間隔で均等に配置した位置
商業地域、容積率500%:適用距離25mの事例。
この事案で後退距離最大を採用する事がかならずしも天空率計算において設計有利にならない
用地条件がある事を解説したい。
たとえば最大後退距離5mを採用すると
NGになる事案が、建物形状を変えずに「最適後退距離」を逆算し2.359mを適用すると
クリアーする。では後退距離を0mにするとさらに設計有利になるかと解析すると
NGになってしまう。
この事を解説する事で天空図の作図法および天空率の考え方が明確になる。
事例は道路に面する間口が17mと比較的狭く道路幅員は11mと広い。さらに後退距離5mの事例
建物高は41m
道路高さ制限を超えている。
検証開始したい。
現況5mの後退距離で天空率計算を行うと
算定位置端部P1とP5が
P1(差-0.038%,斜90.251%,計90.213% )
天空率差分が-0.038%天空率でNGとなる。
天空率算定チャート図でNGポイントを指定後
「外壁後退距離計算」の項で「最適後退距離」ボタンを押下すると
後退距離を2.359mに設定すると現在道路高さ制限適合建築物の天空率90.251%が89.997%と低下する事がわかる。
後退距離を2.359mで道路高さ制限適合建築物を作成し解析すると
クリアーする。
P1(差0.143%,斜89.997%,計90.140% )
今度は差分が+0.143%プラスに転じた。
建物形状は変えてない。変えたのは高さ制限適合建築物の後退距離だけだ。
NG結果と並べて比較すると
後退距離5mの場合、
P1(差-0.038%,斜90.251%,計90.213% )
最適後退距離を算出し適用した2.359m
P1(差0.143%,斜89.997%,計90.140% )
クリアーした青P1ではいずれも天空率が低下(小さくなる)している事がわかる。ただし適合は90.251%が89.997%,で0.254%の低下に対して計画建築物は,90.213%が,0.140% に0.073%低下しているが、適合建築物の低下率が著しい。
計画、道路高さ制限適合建築物いずれも天空率が低下したが
まずは適合建築物の低下から検証してみたい。
適合建築物の天空率が低下したという事は適合建築物の投影面積つまり天空図の影面積が大きくなった事を意味する。
なぜ大きくなったのだろうか?から考えてみよう
後退距離が変化した事による適合建築物の立ち上がり壁面の面積変化は
後退距離5mの場合、立ち上がり高さは31.5m、
後退距離2.359mの場合、立ち上がり高さは23.577m
後退距離5mの立ち上がり面積が535.5㎡に対して最適後退距離2.359mでは400.809㎡で134.691㎡大きい事がわかる。
ところが天空率が小さくなったという事は後退距離2.359mの天空図が大きく投影されたという事だ。
天空図を表示し確認し比較すると
注目していただきたいのが下側の緑で表示される適合建築物の天空図の変化。・・・たしかに後退距離2.359mを適用した天空図は大きく投影されている感じがする。
拡大し比較検証すると
右側が最適後退距離。
1)適合建築物後退位置が前面に移動した為に算定位置P1からの見え係は、方位角が右側に広がる効果が得られた。
その分天空図の横幅投影面積が大きくなる。
2)天空図の頂点方向の変化を考えると後退距離が5mの左側は高さが31.5mで高くなる為に右側高さ23.577mに対して天頂部の投影面積が大きくなる要素となるのでは?
つまり適合建築物の影は後退距離5mの天空図影が大きくなるのでは?。検証をすすめよう。
天空図において高さ方向は仰角で表現される。
青丸で囲った位置の仰角を確認すると左側最大後退距離5mの場合仰角60度を十分超えた位置に対して最適後退距離は60度ちょうど程度で左側最大後退距離部が天頂に近く高い位置に見える事が表現されている。 ただしその差はわずかで、加えて天頂に近くになるにつれ方位角が狭まる為にその面積の増加はそれほど影響しない。
天空図は、見え係を表現しており算定位置(視点位置からの遠近)で方位角と仰角による見え係の大きさが表現されている事がわかる。
つまり右側方位方向は、視点位置から18.651mの位置にあり天頂方向への高さ31.5mより算定位置(目)に近く、方位角の変化の方が天空図に反映される。
天空図は、まさに見え係そのものを表現している事がこの事で理解できる。
ところで計画建築物の天空率が90.213%から90.140% に0.073%低下しているのはなぜ?
この事も解説してみよう。
今度は計画建築物天空図をそれぞれ算定位置に配置すると
計画建築物の右側方位角、そして天頂に近接する仰角は変わらない。ただし左側の方位角の天空図を確認していただくと厚みがわずかだが増している。
後退距離が5mから2.359mで2.641m狭くなった分、適用距離は敷地奥行方向に延長される。
その延長された分、計画建築物左側面の算定位置との角度差により極めて薄い幅だが計画建築物の影として投影される。(赤破線円弧)
その分、天空図の投影面積が広くなり0.073%低下した事がわかる。
天空図を重ねてみると図の大きさに大小があるようには見えないが、天空率0.073%は天空率に影響する。
この検証をさらに進めて
後退距離0mの事例でNGポイント1からの適合建築物天空図の間口幅がさらに広がる事例でも検証したい。
後退距離が0mの場合、適合建築物の右側の方位角がさらに広がる為にさらに設計有利になるのでは?と考えたいところだ。
検証してみたい。
まずは結果から
適合建築物の天空図の間口がさらに広がった為にクリアー幅が広がるかと思ったのだが結果はNG。
アイソメ図で確認すると
赤部の計画建築物は適合建築物を大きく超えている。
この時の道路高さ制限適合建築物の道路境界線上の立ち上がり高さは
11m×1.5(商業地域勾配)=16.5m
まずはクリアした最適後退距離の場合と横並びで比較してみよう。
まずNG右側の天空率は
適合90.398%-計画天空率90.090=-0.308となっている。
クリアーしている最適後退距離の道路高さ制限適合建築物天空率を比較すると
最適後退距離天空率が89.997%-後退なし天空率が90.398%=後退無し天空率が0.401%大きい。
後退距離0mの道路高さ制限適合建築物の天空率が大きいという事は、投影面積が減少した事になる。
面積の変化を検証しよう
まずは後退距離なしの三斜求積図による面積表から
G三斜建物面積は3014.29
これに対して左側、最適後退距離の適合建築物の面積は
G3141.59で後退距離無し3014.29に対して127.34大きい。
後退距離なしの場合、その分天空率が大きくなっている事がわかる。
ではなぜ後退距離無しの影が小さくなったのか?
後退距離なしの場合
原因その①
視点位置からの距離で比較すると影右端までの距離20.248m、一方、適合建築物の立ち上がり上端までの距離16.5mで
立ち上がり高の方が視点に近い。
適合建築物高さは天空図では、同心円で示す仰角で表現され
後退距離無しの場合
左側56.309度から右側39.175度
これに対して
最適後退距離の場合
左側60.463度から47.478度
後退距離が無い場合は、天頂方向の高さが低くなりその分、影が小さく投影され天空率が大きくなった。
つまり横の広がりに比べて高さ方向の幅が狭くなり結果、投影面積は小さくなり、
後退距離無し適合建築物の天空率>計画建築物天空率
でNGとなる。
原因その2
計画建築物の後退距離が0の場合、最適後退距離2.359mの分適用距離が敷地側に長くなる為、計画建築物の左右の側面が大きく投影される。その結果、計画建築物の天空率は低下する。
確認しよう
最適後退距離の計画建築物天空率 90.14%
後退距離0mの場合 90.09%
後退距離0mの計画建築物天空率が低下した。
以上の事より後退距離0mの場合NGになった原因は
①適合建築物の天空率増加②計画建築物の低下により
適合90.398%-計画天空率90.090=-0.308となる事がわかる。
天空図はこのように見え係を左右方向の方位角、天頂方向の仰角で作図され、天空率で数値化される。その事により通風、採光の良否を判定する。
最適後退距離が有効になるのは上記の理由から計画建築物の後退距離の半分程度まででさらに後退距離を0mに設定するとNG率が大きくなる事がわかる。
本日も長くなった次回は下記の事例で
道路に面する幅が広くなった場合、最適後退距離が同様に有効に機能するのかを検証したい。
次回までお元気で!