「高さ制限の起源」
高さ制限の期限は、大正9年の市街地建築物法施行令公布による絶対高さ制限が起源らしい。
財団法人土地総合研究所のレポートを参照すると
「住居地域では65尺。それ以外の地域では100尺とされた。
100尺と65尺という数値には明確な根拠があるわけではなく、「一種の認定」の様なものものでたとえば100尺は、1)既存の最も高い建物の高さ2)ロンドン建築法(軒高80尺+2層分)や東京都建築条例案(最大100尺まで)の高さ制限値」
「なお、高さ制限値は、1931(昭和6)年の施行令改正で尺貫法からメートル法へ変わったことに伴い、65 尺が20mに、100 尺が31mに置き換えられている。100 尺は30.3m、65 尺は19.7mであるため、改正によりわずかに緩和されたことになる
(1尺は10/33m、約0.303m)。
現在の隣地高さ制限の立ち上がり31m、および20mは起源が大正9年に遡る事がわかった。
しかしどうやらその数値に科学的根拠があったわけでは無かった様だ。
内田(1921b)p15「第一に問題となるのは百尺といふ数、六十五尺という数の起りと、此方法によればどの位の家が出来るかと云ふことである。其法の起りは別段に的確なる根拠があると云ふ訳ではなく一種の認定であると云ふより他はないのである。」
高さ制限は認定の為の数値を当時の建築技術(構造、EV等)を考慮し決定した様だ。通風採光(衛生)はあと付けである事がわかる。衛生に関しては
□物法施行令第4条(1931 年改正)【下線部は変更箇所】
建築物の高は住居地域内に於ては二十メートルを、住居地域外に於ては三十一メートルを超過することを得ず 但し建築物の周囲に広濶なる公園、広場、道路其の他の空地ある場合に於て行政官庁交通上、衛生上及保安上支障なしと認むるときは此の限に在らず
「建築物の周囲に宏闊なる・・・空地のある場合・・・・・衛生上・・支障なしと認むる時この限りにあらず」とある。敷地内の空地が衛生(通風採光)に寄与するとし建物規模の緩和になった様だ。・・・・・・
ところで当時、容積率制限は無く建物の容量制限は
1919(大正8)年4月4日、現在の建築基準法の前身となる市街地建築物法(以下、物法)と都市計画法が制定された。建築物に対する制限は、物法が担っており、高さ制限と建蔽率制限の組み合わせによって、建物容量のコントロールが行われることになる。
容積率制限は1950(昭和25)年の建築基準法制定でも採用ならず1970(昭和45)年に容積制が全面導入されるまで続いた。容積率導入と同時に絶対高さ制限が撤廃され隣地斜線勾配、1.25および2.5が適用され現在に至る隣地斜線が始まる。「道路幅員による高さ制限」
勾配1.25あるいは2.5の科学的根拠は?・・・と読み進めるとまず道路幅員による高さ制限の項で1.25勾配の起源が記述されている。
□物法施行令第7条(1920 年当初)
建築物各部分の高は其の部分より建築物の敷地の前面道路の対側境界線迄の水平距離の一倍四分の一を超過することを得ず且其の前面道路幅員の一倍四分の一に二十五尺を加へたるものを限度とす 但し住居地域外に在る建築物に付ては一倍四分の一を一倍二分の一とする。
前項の高とは前面道路の中央よりの高を謂ふ
とあり1.25倍の勾配に25尺を加えたものを限度・・・とある。ではその1.25倍の根拠は
施行令第7条第1項の前半部が道路斜線制限であり、前面道路の反対側境界線から1:1.5(住居地域は1:1.25)の勾配ラインを超えてはならないと規定された。これは、対向する建物の採光を目的としたものである。ただし、住居地域の1.25 は理論的根拠に基づく数値ではなく、前面道路が最低基準値の9尺(約2.7m)の場合に、平屋の建物が建てられる勾配から決められた。
当時の最低道路巾2.7mを1.25倍すると3.375mで平屋が建てられる高さから逆算して1.25倍が決まった様だ。
通風採光を目的としながらその1.25勾配は理論的数値ではない事が明記されている。
1.25勾配は通風採光が目的ではなく。おそらく1913年ころアメリカから始まったモータリゼーションに対応する為に道路幅を広げ事が目的で平屋程度の建物なら道路を拡幅する際に有効と考えたとの説がありそのほうが説得力がある。
当時の市街地建築物法の目的が「衛生」「保安」「交通」でありその1.25勾配は最大の目的が「交通」の道路幅拡張にあったと考えられる。事実、最低道路幅は2.7mから4mに変更された。
ここでの結論は大正9年の市街地建築物法はそもそも通風採光を確保する為の科学的根拠に基づかないと記述されている事。
道路高さ制限で通風採光を確保する考え方には無理がある。たとえば
第135条の5 天空率
この章において「天空率」とは、次の式によつて計算した数値をいう。
Rs=(As-Ab)÷As
この式において、Rs、As及びAbは、それぞれ次の数値を表すものとする。
Rs 天空率
As 地上のある位置を中心としてその水平面上に想定する半球(以下この章において「想定半球」という。)の水平投影面積
Ab 建築物及びその敷地の地盤をAsの想定半球と同一の想定半球に投影した投影面の水平投影面積
つまり、それぞれの建築物の絶対的なサイズはではなく、魚眼レンズに写りこんだ影の大小を比較しいわゆる見え掛かりを比較する事だ。
建築規模が変わらなくても魚眼レンズから遠くに配置されると影は小さく写り込み天空率は大きくなる。
天空図の書き方つまり見え掛かりをどのように作図するのか?からはじめよう。
天空図は建築物および地盤が投影された魚眼レンズを真上、つまり天頂方向からみた2次元の図で表現する。
その作図法はまず天頂(目の位置)から建物の範囲を左右の
方位線で表現する。
これが天空図の幅で建物幅が狭い時あるいは算定位置が建物から遠くになると左右の方位角による幅は狭まる。これが目に映る建物左右の見え係を表現。
次に建物を見上げた角度、仰角は
赤丸で表現する目の位置から建物方向に10度ごとに見上げた角度ごとに輪切りの線(左側に角度を表示)をやはり天頂側から見た同心円で表現する。
つまり高層建築物の近くに魚眼レンズを配置すると魚眼レンズに投影された影は限りなく天頂側に近づくが天頂に重なる事はない。建物Aの高さは仰角としA”の位置に天空図上で表現される。この場合仰角60度を越えたあたりにプロットされている。
この天空図の作図法からもわかる様に建物幅が広い場合には、天空図に左右の方位角が広がり影面積が大きくなり天空率低下の傾向となる。
一方、高層建築物の場合天頂を越えられない事から天空図への影響は限定的となる。
天空図は魚眼レンズに投影された特性から方位角と仰角で作図される投影図で建物の絶対的規模で確定しない。
では通風採光を評価する指標として魚眼レンズを採用する目的は?。
「平成14年改正基準法等の解説 新日本法規」に明確に記されているので紹介したい。
魚眼レンズにより人間の目そのものの見え掛かりを表現する事を実現しており敷地の空地を天空図に反映する事により従来の高さ制限(H/D)による通風採光の評価法の問題点が改善できるとされる。
この事は「天空率により通風採光を評価する事により街並みがばらばらになるのでは?」の項の回答と合わせ読むことにより天空率に求められる事が明確に記述されている。
天空率は、街並みの形態の不統一は否めないが敷地単位で考えるつまり敷地内の空地を通風採光の指標として合理的であるとする。
以上が天空率が通風採光の指標として利用される理由、
次回は最適後退距離の考え方3回シリーズをまとめ編集し掲載したい。
本日はここまで次回までお元気で!